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AIN'T EASY

FE小説が主

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小説(2)



猛省しながら以下略







隣に座る男のなめらかな長い黒髪をもてあそびながら、フィーナはどこか退屈そうに分厚い本を開いていた。
それはたった一度開かれたままその後めくられる事もなく体いっぱいに陽光を浴びている。
彼らは宿営地から少し外れたゆるやかな丘の上に腰を落ち着けていた。
といってもフィーナは突然課せられた課題に辟易し、長髪の男を強引に誘って現実逃避を図っただけであった。
男ははじめ多少うんざりした顔をしていたが無言のまま愛刀を磨いたり眺めたり、光をあちこちに反射させたりしている。

「こんなもの、何の役に立つっていうのよ」大きなあくびをしてからフィーナはぼやいた。
「ねえナバール、王子さまってあたしに何を期待してるっていうのかしらねえ……あたしはただの踊り子だっていうのに」

 ナバールと呼ばれた男は短く知らん、とだけ答えた。フィーナはむくれてみせた。

「なによ、冷たいんだから……あーあ、なんだか眠くなってきちゃった」

 フィーナはまた大きなあくびをすると、ナバールのひざの上にしなだれた。
少しだけナバールは彼女の予想外の行動に面食らっていたが
放っておくと本当に眠ってしまいかねないと我に返り、彼女の肩をゆすり始めた。

「おい、こんなところで……」

「なによう、けち」

「眠いのなら寝台で寝ろ」

 体勢はそのままにフィーナはナバールの顔を見上げた。

「そんなもの、どこにあるのよ……相変わらずいい男ね」

「民家で借りていたものがあるだろう、今朝空いたらしいからな」

「……どういうこと?」

 彼らはしばらくお互いの顔を見つめあった。風が彼らの長い髪を花でも撫でるようになびかせていった。
ナバールが口を開いた、フィーナは彼の綺麗にそろっている歯を見つめていた。
硬い木の実の殻をかち割る人形のようだわ。……

「もう使う必要がなくなったからだろう」

 フィーナは眼を見開いていた。

「わからないわ、だってあそこには……あの人はどうしたの? まさか、」

 死んだの?

 その言葉は云えずに彼女はナバールの肩にしがみつこうとした。
だがその前に彼女の体は彼によって元の位置に戻されてしまっていた。

「彼は前線から外された」

 フィーナは云うべき言葉を失った。







 ◆◆◆






アリティアへの帰還を命ずる。貴公は暫定的に騎士団長の任を解かれる。
マルス王子の書かれた書簡をアリティア王都復興指揮官殿に届け、
そのまま貴公はアリティア王都にて待機となる。




頭の中で延々と老軍師殿の力強い声が響いている。

 

どうすることも、できないのか。
祖国のために闘うこともできずに

このまま、

ただ朽ちるのを待たねばならないのか、

蚊帳の外のまま







 ◆◆◆







 体が重く感じられたのは気のせいではないだろう、とどこか冷静にアランは思った。
ぼんやりとしていたつもりが意外にも出立の準備は直ぐに整ってしまった。
それだけ装備品や荷物が少ないからかもしれないが、彼は残った時間をどう過ごそうか考えあぐねていた。
肝心の書簡がまだ彼の手元に届いていないのである。彼はまだ高みにある太陽を見上げ、眼を細めた。

 ……最後にまぶしい、と感じたのはどれくらい前のことだったろう……

 彼は手をかざした。鳥の羽ばたきが聞こえた。それとほぼ同時に背後に人の気配を感じた。

「何か用か」

 姿勢はそのままに彼は問うた。

「……なによ、元気そうじゃない」

 聞き覚えのある女の声だった。「てっきりしょげ返ってると思ったのに。つまらないの」

 彼女はアランの正面に回りこみ、唇を尖らせた。

「ご期待には添えそうもないな」

 彼は苦笑して見せた。「申し訳ないが」

「心配して損したわ。ばっかみたい」

 彼女はそう云いながらも声を一瞬詰まらせた。そして少しうつむき、息を深く吐いた。

 アランはそんな彼女を不思議そうに見下ろした。

「どうした、気分でも悪いのか」

 彼女はその声を聞きながら、やっぱり馬鹿みたい、と胸の中で呟いた。

 彼の顔色はますます死の様相を呈し、本人が気丈に振る舞うほどそれは
痛々しく感じられてしまうのであった。
彼女は素早く両目ににじんだものを拭うと、
彼に向かって叫んだ。

「あんたのほうが馬鹿じゃないの!」

 アランは目を見開いた。フィーナは続けた。

「人のことより、自分のこと心配しなさいよ! ほんと、間が抜けてるんだから!」

 フィーナは云い終わると彼に背を向けて走り去ってしまった。

 アランはしばらくあっけに取られていたが我に返るなり小さいながらも声を立てて
笑い出した。
どこか彼女にはかなわない、と思った。己の小ささがわかったような気がした。

 彼女はまだ年若い女性だ。

 だが既に芯は太く、輝いている。

 彼は呟いていた、その言葉は確実に彼の精神を奮い立たせた。
そして彼女にも彼は感謝の
気持ちを言葉として放った。





 彼は、もう考えるのをやめた。

 成るように、成るしかない。




 再び空を見上げた彼の顔には、確かな決意があらわれていた。



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