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AIN'T EASY

FE小説が主

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小説(4)



ここまでが過去に書いたものです
いつか直したい

太陽が雲間から下界の人間たちの慌しさを覗き見ている。あちらこちらから雲が風にどんよりと流され、太陽の視界が次第に阻まれていく。それでも太陽は眼下のものたちを見ようとする、それは欲望か、使命感か、ただの悪癖かはわからない。

 太陽が、空が覆われた。

 夕闇と呼ぶにはまだ早い時刻のはずだった。

 丘という丘は沼地のように黙り込み、森の影は山のように大げさに塗りつぶされ、鳥たちだけが興奮したように鳴きわめいていた。



「本当に雨でも降ってきそうね・・・・・・」



 少し身を震わせてユミナが云った。彼女の手には未完の繕い物が握られている。


「そうね、でもテントの中だから私たちは大丈夫だと思うけれど・・・・・・ユミナ、寒い? 大丈夫?」


  シーダが心配そうにユミナの顔を覗き込む。彼女の膝にも繕わなくてはならない衣服たちがいくつかだらしなくのしかかっている。「ちょっとだけよ、大丈夫」ユミナはそれだけ云い、微笑んだ。

 その表情は、初めて出会った頃のものと全く変わらなかった。



 必要以上に硬く、気丈に振舞う少女のものと。



「・・・・・・そう、ならいいけれど・・・・・・あまり無理は良くないわよ」

「わかってるわ、・・・・・・わかってる。・・・・・・ありがとう」



 シーダは笑んだ。ユミナは照れくさそうに手元を再び動かしはじめた。
 
 




◆◆◆






「おい、このテントちゃんと張れ。危なっかしいったらない」

 風が次第に強くなる。ウォレンの云った通り、今夜は雨が降るようだ。空を見上げても月も星もかけらも見当たらない。見えるのは厚ぼったいインクをぶちまけたような色の雲だけだ。

 ジョルジュは応答がないことにため息を吐き、自らテントを張りなおし始めた。頂点から伸びる布に巻きついた木の杭を改めて地面に押し込む。腰に巻きつけておいた革紐でさらにそれを補強する。

 陽が隠れたことで気温が落ちてきているようだ。ジョルジュのむき出しの腕には粟が立ち始めていた。

「ご機嫌斜めか?」

 頭上からかけられた声にジョルジュは返事をしなかった。

「そうみたいだな」

「俺のことなんかどうでもいい。そんなことより、手伝う気がないなら邪魔だ。そこをどけ」

 ジョルジュは相手の顔を見上げずに早口で云った。

「わかった、・・・・・・どくよ」

 彼はその場から二、三歩退いた。それだけだった。

 くそったれ、とジョルジュが低い声で罵った。

「そんなに外されたのが悔しいのか」

 彼、アベルの言葉にジョルジュは反応しなかった。少しだけ、作業動作が速くなった気がした。

「今さら俺が云うのもなんだが」

 アベルは言を継いだ。

「じゃあ云うな」

 先ほどのくそったれ、と同じ口調でジョルジュが云った。相変わらず相手の顔を見ようともしない。

 アベルはしばらくジョルジュを見つめていた。時折吹く風にわずかだが雨が混じる。気温は思ったよりも早く下がるようだ。

「お前は努力してる。それは皆知ってる」

 アベルは口の中が渇いているのに気がついた。目の前で必死にも見える姿でテントの補強をしているこの男は才能もあり、努力もし、なにより自分の実力にいつまでたっても満足しない。追い求めるものが既にその腕の中に在ったとしても気がつかない。気がつかないまま追いかけている・・・・・・いわば幻を。

「今回は可愛い愛弟子に譲ってやれよ」

「弟子をとった覚えはない、そこをどけ」

「弟子も当然だろ? ・・・・・・まあ正しくは弟子の弟か」

「何度も云わせるな」

「お前もいいかげん頑固だな、気位も同じくらい高いときてる。それに、」


 アベルは最後まで云うことが出来なかった。天地が逆さになり・・・・・・そして次の瞬間には不快に湿った地面の上に尻餅をついていた。


「どけといったはずだ」

 ようやくジョルジュが立ち上がった。アベルは肩をすくめるしかなかった。






◆◆◆






 闇は濃くなり雨も次第に強くなる。前衛部隊はどこまで進んだろうか。テントにいる間、エルレーンは本を片手にぼんやりと考えていた。集中したくてもできない。彼はマリクを羨み、憎み、その悔しさを糧に今まで必死に術を習得してきた。薄暗い照明も厭わず、睡眠時間も削れるまで削り、体調が優れないときでさえ本にしがみついて一つでも多くの文字を読み取ろうとした。そして、マリクに勝つことはできなかった。貪っていたのは自分の正常な判断力、健全な精神や思考能力であり、それらは結局のところまったく彼自身の力にならなかった。総ての誤解が解けたいま、
こうして実戦に参加できる機会もあるというのにエルレーンは自らそれを拒み続けている。マリクやウェンデルに何故そこまでして固辞するのかと問われたこともある。だが彼自身にもはっきりとした理由がわからない。


 エルレーンは灯りを消した。隣で寝息を立てるユベロに織り布をかけ直す。


 ・・・・・・そういや、お前も苦労してるんだっけな・・・・・・


 なかば自嘲ぎみに笑むと本を頭の下に敷き、エルレーンは自分の寝具の中に潜り込んだ。



 今は何事もなく夜が過ぎればいい。



 そのうちに、きっと良くなる兆しが見えてくる。

 彼は自分に云い聞かせるかのように呟いた。

 彼はまた、すべきことを見失うのを恐れていたのかもしれない。






◆◆◆





「あ、いたいた! シリウスさあん!」

 素っ頓狂な声に振り向くと、そこには小鹿のような少女がいた。雨脚がだいぶ強くなってきたので獣の皮らしきものを頭からかぶっている。そこいらを歩く猟師が見れば、思わず弓を引いてしまいかねないいでたちだがシリウスにとっては普段から見慣れたものらしい。彼は眉一つ動かさなかった。「どうかしたか」喉の奥から響かせるように言葉が流れる。


「え、シリウスさん寒くないの? ってか何してんの? もう皆寝てるよ?」


 シリウスの問いなどはじめからなかったような口ぶりである。そんなことにも慣れているのか、彼は彼女の質問に丁寧に答えはじめた。「わたしは今、見回りをしている。これほどの雨風ならばまだ気にならない」


「嘘、え、じゃあ今までずっとシリウスさん独りで見回りしてたの? 知らなかった・・・・・・」


 彼女の腰には細身の剣がぶら下がっている。そんなものとは無縁に見えるが彼女とて経験が浅いわけではない。騎士としての自覚もあるだろう。だが何故彼女は自己を鍛えようとはしないのか。彼は彼女が稽古をしている姿を見たことがない。シリウスは自分の能力がこれ以上上がらないことを知った時点で、後続の人間のために自分の経験が生かせることを望んだ。そしてそれは歓迎された。しかし彼女はそれを望まなかった・・・・・・ように彼は思う。


 いくら声をかけても応じようとしない。かといって他のものを侮蔑するようでもない。実戦を辞退するようなこと
もしない。独りきりで鍛練している様子もない。


 ではなぜか。シリウスには理解できなかった。


「あれ、でもこないだシリウスさん前線張ってなかったっけ?」

 飴玉でも似合いそうな顔だな、と彼は思った。


「わたしと、アラン殿とでやっていた。ところでエスト、わたしに用事でもあるのか」


 エストはああ、と声を上げると思い出したかのように話し出した。

「いっけない、忘れてた! なんかさ、変なのよ・・・・・・どう云ったらわからないけど、空気が」

「どういうことだ」

 シリウスの片眉がはね上がった。


「なんかさ、息苦しいっていうか、こう・・・・・・」

「それは皆がそうなのか?」

「う~ん、今のところあたしだけ、かな・・・・・・空気がこもってる感じ・・・・・・」

 エストは大げさに腕をまわした。「ここらへんより、向こうの方が息苦しかった」

 エストの人差し指の向こうには、女性たちが眠っているはずのテントがある。

「わかった、行ってみよう」

 シリウスはエストに少し後方から来るように指示し、彼女の示した方角に向かって歩きだした。











 



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