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AIN'T EASY

FE小説が主

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小説(5)


昔と文体が違う気がしてならない…



 背後に暗雲が迫っていた。手綱を握る手に焦りが出ないよう、アランは口元を引き締めた。できるだけ早く、この書簡を届けねばならない。余計なことを考えているヒマはない。
 それにまだ、出立したばかりだ。今夜中のうちに国境を越えなければならない。そうでなければ、目算通りに事は運べないだろう。駆ける蹄の音が甲高くなった。草原を抜ける。この先に乾いた大地が先にあるはずだ。思わず空を見上げていた。方位を知ることはできなかった。「だが、」

 間違ってはいないだろう――――陰気な声が独りごちた。

 急がねばならない。体力への過信も捨てなければならなかった。自分はもう、若くもなければ前線に立つこともできない。隠し通すことすらできなかった。これ以上、誤魔化すこともできないだろう。できないことだらけだ。ひゅう、と細く喉が鳴った。自嘲の笑みを浮かべていた。
 
 それならば、できることをするだけだ。

 視界が広がった。荒野に出ようとしている。
 その空に若い騎士団長の顔を思い浮かべた。その赤毛の男は最後まで笑おうとはしなかった。意思の強そうな男だが、妥協を知らぬようにも思えた。若さが彼をそうするのであれば、あれはきっといい騎士になるだろう。おそらく、もう自分が教えるべきことはなにもない。どこかで会うこともないかもしれない。
 浅く細い呼吸が胸を軋ませた。落ち着け。落ち着いてくれ。ここで立ち止まるわけにはいかない。息苦しさに喘ぎ、手綱をさらに握り締めた。馬の背に跨りながらうずくまりたくなった。遠くに雷鳴が聞こえた。だめだ。ここで、立ち止まるわけにはいかない。崩れかけた姿勢をぐっと持ち上げた。堪えろ、何のための早馬だ。それすらできないようでは、騎士として死んだも同じではないか。
 歯を食いしばり馬の腹を蹴った。いななきが荒野に響いた。速度が上がる。無理をさせてでも、駆け抜けなければならない。幸いなことに、まだ雨足には追いつかれていない。背後を振り返った。
 死んだ色の雲が空を覆い尽くしていた。自分の肺のようだった。死神め。稲光の瞬きに前へ向き直り、額に浮かぶ汗を呪った。
 諦めるものか。ぐらつき始めた頭の中で地図を広げた。方角を少しでも間違えると砂漠に出てしまうからだ。それだけは避けなければならない。
 慎重に、だが目一杯駆ける。冷たく湿気りはじめた空気に身を震わせながら手綱を握っていると、ふと、遠くに光が見えた。
 息を整えながら馬を止める。馬の方も荒い息を吐いていた。怪訝そうにゆっくりと近づいて行く。それは炎のようだった。焚き火が赤々と揺らめいている。その周りに小さい影が――ひとつ、ふたつ……五つ。皆一様に身を寄せ合って、眠り込んでいるようだ。すぐそばに置かれているのは彼らの荷物だろう。積み上げられたそれらは子馬ほどの背丈にもなっている。彼らは一見子どものようにも見えたが、フードを目深に被っているため良くは分からなかった。それ以外に人の気配はない。もともと見通しの良い荒野だ。身を隠すには相応しいとはいえない。それにしても彼らは……何だ? 他人のいざこざに構っている時間はない。しかし見てしまった以上放っておくこともできない。じきに雨も降りだすだろう。しばし思案し、馬の首を撫でる。やがて溜息を落とした。
「……仕方あるまい……」
 重い呟きを零して馬の背から降り、眠りこけている様子の彼らに近づいた。焚き火が彼らの寝顔を明らかにする。しゃがみこみ、一番手前に寝そべっている子どものフードをつまみあげた。
「おい」
 少年は目を覚まさない。意外にもその顔は精悍なように見えた。よほど疲れているのか。そう思ったが、このままここで眠っていても雨に降られてしまうだけだ。体を揺さぶってみる。起きる様子はない。そうしながら、彼らの荷物に視線を投げた。何を運んでいるのか、それは五人の子どもたちには多すぎる荷物のように思えた。もし彼らが旅をしているなら余計にだ。芽生えた不審が、思わず男を立ち上がらせていた。ゆっくりと歩を進めていく。ただの布袋だった。それらがいくつも積み上げられている。眉を寄せた。問題は、その大きさだった。それは子どもが背負い込むにはあまりにも大きすぎた。馬の頭が三つ、それくらいは十分に入るだろう。どういうことだ? それに触れようとしたその刹那、

「おおっと、そいつには触っちゃだめだぜ」

 年若い少年の声が聞こえた。馬がいななく。振り返った。少年達がナイフを引き抜いていた。しまった。盗賊か。心中の舌打ちが聞こえたかのように、黒毛の少年が笑った。
「……馬はやらんぞ、金ならある」
 立ち止まった自分を苦々しく思いながら、腰に下げた小袋を毟り取った。それを放り投げる。
「すげえ音。聞いたか? みんな……」
 黒毛の少年がおどけて言った。精悍な顔の少年が鼻を鳴らす。彼には髪がなかった。「早くやっちまおうぜ」フードを被りなおした丸坊主の少年が吐き捨てるように言うと、彼らの表情が不意に消え去った。
「悪く思わないでくれよな」
 微笑みが彼らの顔に一斉に浮かんだ。
 その直後、五つの刃が煌いていた。どういうことだ――――戸惑いを殺しながら、アランは剣を引き抜いていた。







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